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シルクロードのおもしろい動物と人々

今回の展示のテーマは動物と人間である。

 我々人間は古来、植物と動物のおかげで生きている。動物には人間にとって役立つものと害をなすものがある。イランのゾロアスター教は善悪二元論に基づいて、動植物を善神アフラ・マズダーと悪魔アーリマンの創造物とみなして以下のように二分した(経典『ブンダヒシュン(創世神話)』による)。

 

(1)有用な動物:山羊、羊、ラクダ。猪(野豚)、馬,ロバ、牡牛、水牛、キリン、犬、狐、ウサギ、リス、ジャコウジカ、マングース、テン、隼などの鳥類,蚕、蜜蜂、コウモリ、魚、象

(2)有害な動物:蛇、サソリ、オオトカゲ、蟻、ハエ、イナゴ、カエル、蜘蛛、オオカミ、ライオン、トラ、豹、ハイエナ、カニ、猫、フクロウなど

 

この分類は多分に、遊牧民の価値観に基づいているので、インドやメソポタミアなどの農耕社会の人々の考えとは異なっている部分もある。例えばインドでは毒蛇のコブラを龍神(ナーガ)として崇めたり、メソポタミアではサソリを護符としていた。ライオンは家畜や人間を襲う害獣であったが、百獣の王として畏敬された。フクロウはギリシアでは知恵のシンボルとして尊敬された。

シルクロードの動物の中には、既に絶滅したものも少なくない。例えば、ダチョウ、カスピ虎、イランやメソポタミアのペルシア・ライオン、アフガニスタンやパキスタンのサイ、チーター、オナゲルなどを挙げることができる。これらの野生動物の絶滅の直接的原因は人間による環境破壊である。今回展示されている動物像は「我れもまたシルクロードにありき」と我々に訴えている。声なき声に耳をかたむけてみたい。

展示品の動物は容器、子供の玩具、ペットないし副葬品、装飾モティーフ、神のシンボル、コインや印鑑の図柄など、その目的と用途は多種多様で、人間と動物の共存共栄の歴史の側面を物語る。

もう一つのテーマの人間に関しては、イスラム陶器と中国の俑が主なものであるが、人類が培ってきたさまざまな表現方法で人物を巧みに造形している。デフォルメした抽象美術的なもの、装飾的に優美に上品に仕上げたもの、写実的なものなどである。どのような作例を見ても、人の心の空洞を潤して癒してくれる優しさがあるのではなかろうか。

シルクロード美術史家 元金沢大学教授 文学博士

​田辺勝美

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牡羊形容器
土器 紀元前1000年頃 イラン

たくましい角を有し、胸部と臀部は極端にデフォルメ(変形)して形作っているが、首、胸部、臀部は二重線で強調されて豊満な肉体を感じさせる。首にビーズのある首輪をつけるのは珍しい。抽象的な造形を考慮すると、本作例はイラン北部で前1000年で流行した形象土器のように見えるが、製作年代と製作地を特定するのは難しい。

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豚小屋の倉庫
灰陶 1〜2世紀 中国

 豚小屋付きの厠とペアーをなすような建物で、恐らく穀物を入れる倉庫であろう。豚が出入り口から覗いているが、豚がいるところではない。豚は厠にいるべき存在である。この倉庫に蓄えた穀物の残りを豚に餌として与える場合もあったのであろうか。あるいは、もっとマシな餌を寄越せと倉庫に侵入した豚であろうか。

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人面壺
土器 紀元前300年頃 パキスタン

ボリュームのある胴部に穴を開けて、鼻と眉をつけ加えた素朴な人面を表現しているユニークな壺である。ガンダーラの北方の青銅器時代(前2500~1500年頃)の古墓から出土したもので、副葬品として製作されたのであろう。

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